溶接のなかでも融接による溶接は母材を加熱して溶融し、冷却して結合します。
この過程では「溶接変形」や「機械的性質の変化」、「残留応力」などの問題起こりやすくなります。
ここでは、このなかでも溶接作業では付き物となる「溶接変形」について解説します。
融接の溶接で起こりやすい問題
溶接のなかでも融接に分類される溶接は普及率が高く、製品作りには欠かせない方法ですが、母材の加熱と冷却の工程で次のような問題が起こります。
溶接変形
溶接変形は加熱と冷却による膨張と収縮で起こる歪みです。
詳しくは下の項で解説します。
機械的性質の変化
融接の溶接部は母材を溶融して凝固することで金属組織に大きな影響を与えます。
影響を受けた部分は結晶粒が粗大化し炭素を多く取り込みます。
炭素を取り込んだまま凝固した状態をマルテンサイト組織と言い、マルテンサイト組織は硬く割れやすく、もろい、という特徴があります。
残留応力
残留応力とは、溶接後、外力や熱勾配を取り去っても材料内に残る応力のことです。
残留応力が発生すると亀裂や割れを起こすことがあります。
見た目には分かりにくいですが、強度が必要な部品や構造では重要になりますので対策が必要です。
溶接変形(ひずみ)とは
金属を高温の熱で溶かして接合する溶接では、金属が局所的に熱されて膨張し、冷却すると縮小します。
そのため、熱した部分にひずみが生じやすくなります。
しかし、製品のなかには高い精度が求められたり、美観を求められるものも存在します。
このような製品では溶接変形が起こると品質の基準を満たせない場合があります。
溶接変形のない製品を作るためにはあらかじめ対策をして溶接歪みを防ぐか、溶接変形を矯正する必要があります。
溶接変形が起こる原因
溶接変形の主な原因は、母材に必要以上に熱を与えることです。
金属を溶接するためには母材が溶けるだけの熱が必要ですが、必要以上に熱を与え続けると完成品が歪む原因となります。
アーク溶接のアークの温度は約5,000~20,000℃にも上ります。
鉄の融解温度は約1,500~2,800℃ですので、金属を溶かすには十分な温度です。
金属自体の熱伝導率も高いため、溶接作業が始まると金属がすぐに高温になり、膨張し始めます。
膨張した金属が冷却されると、膨張した原子の結合がもとに戻ろうとします。
均一に熱していれば膨張も均等に起こり、冷却後はもとの形に戻ります。
しかし、局地的に熱が与えられすぎると一部の膨張率が大きくなり、ほかの膨張率が小さくなるため、製品に変形が起こりやすくなります。
溶接変形の防止対策
仮付けしたうえで溶接する
あらかじめ点付け溶接で仮付けをしておく方法です。
仮付けは、等ピッチで行う方法、上下、左右対称に行う方法、千鳥で行う方法があります。
仮付けは歪み自体は抑えられないため、仮付け箇所が多いと応力の行先がなくなり、母材に負荷がかかります。
負荷が大きいとクラックや製品の割れの可能性が高くなりますので注意が必要です。
開先の形状に注意する
開先は強度を高める効果や変形を抑制するはたらきがありますが、開先の形状をむやみに設けてしまうと溶接変形などのトラブルが起こりやすくなるため注意が必要です。
目安としてはV形開先は60度、レ形開先は45度で、角度はできるだけ狭くします。
溶接熱が集中しないようにする
連続して溶接をし過ぎると、部分的に高温になり、変形しやすくなります。
加熱し過ぎないように間隔を空けて溶接して変形を抑えます。
溶接の順番を工夫する
溶接を直線で行った場合、溶接の熱が次々と母材に伝わり大きな歪みにつながるため、一部分に熱が集まらないように溶接の順番を工夫する方法があります。
・バックステップ法
横収縮、縦収縮、座屈変形に有効
・飛び石法
縦収縮、座屈変形、回転変形に有効
・対称法
横収縮に有効
ただし、これらの方法は連続溶接ではないので、溶接どうしの継ぎ目に欠陥が生じやすい点で注意が必要です。
溶接箇所を少なくする
溶接箇所を少なくすれば、加熱する部分が少なくなり、膨張と収縮を抑えて変形しにくくなります。
その反面、溶接箇所が少ないことで強度が低くなる可能性があるため十分注意が必要です。
逆ひずみを利用する
「逆ひずみ」とは、溶接で起こる変形をあらかじめ予測し、変形する方向とは逆側にあらかじめ変形させることです。
これにより、溶接による変形が逆歪みを吸収し、最終的な変形を少なくできます。
溶接変形の矯正方法
溶接に歪みが主尾下生じた場合は溶接終了後に許容範囲に収まるように矯正します。
矯正の方法は大きく分けて「機械的方法」と「熱的方法」があります。
溶接変形の原因は溶接部が局所的に縮むことです。
つまり、これを直すには縮んだ場所を伸ばすかたるんでいるところを縮めるのが基本です。
前者は機械的方法、後者は熱的方法です。
機械的方法
溶接によって変形が生じた部分を冷間塑性加工により伸ばす方法で、ローラー、プレスなどの装置が用いられますが、複雑な形状の部材や立体構造部では矯正が困難です。
矯正能力と矯正精度が高いという長所がある反面、過度な矯正は溶接部に損傷を与えるおそれがあります。
熱的方法
溶接により変形した近傍の母材を加熱、冷却して収縮させ、矯正する方法です。
熱的方法による強制は熟練度を要し、加熱、急冷により材質が変化することもあるため、施工管理や作業者の選定に注意が必要です。
また、収縮により全体の寸法が短くなるおそれがあります。
加熱熱源は一般的にガス炎が用いられます。
加熱後の冷却は、加熱直後に水冷すると高い効果を得られます。
加熱の最高温度は低炭素鋼や非調質高張力鋼は約900℃、調質高張力鋼は550℃でこれ以上の温度にならないようにします。
溶接変形矯正のための加熱方法の種類
線焼き
歪み取りの基本的な加熱方法で、背焼きで多く用いられます。
松葉焼き
各方向に歪み取りの効果が働き、均整がとれて仕上がりが美しいのが特徴です。
似た手法に十字焼きがあります。
格子焼き
格子焼きは大きな歪みを取るときに使います。
比較的平均な仕上がりが特徴ですが、焼き過ぎになりやすいため注意が必要です。
点焼き
点焼きは収縮力が大きいため、主に薄板に用いられます。
こぶになりやすいのが特徴です。
三角焼き
骨材の曲がりの歪み取りや、絞り加工に用いられます。
リング焼き
効果的な焼き方で仕上がりも美しいのが特徴です。
製品に適切な歪み対策を行う
溶接変形は母材に必要以上の熱が伝わり、熱膨張や収縮によって変形してしまうことを言います。
溶接変形は、溶接作業では付き物です。
歪みを抑えて高い精度の製品を作るためには、材料や製品にとって適切な変形対策が必要です。