溶接欠陥の種類と非破壊検査の内容・種類・タイミング

橋やビルなど構造物の劣化状況を確認し予防保全を目的として、溶接された製品が規定の基準をクリアしているか品質を検査する必要があります。

分解すればなかまでしっかりと検査できますが、なかには分解して検査できないものもあり、そのような製品に対しては分解せずに非破壊検査を実施します。

このページでは、溶接の非破壊検査について解説します。

 

溶接欠陥の種類

溶接欠陥には大きく分けて外観から分かる表面欠陥と外観では分からない内部欠陥がありますが、代表的な溶接欠陥には以下のよう種類があります。

 

表面欠陥

・オーバーラップ
溶接金属が母材と融合せずに重なった状態を指します。
溶接速度が遅く、溶着金属量が多すぎる場合に起こりやすい欠陥です。

・アンダーカット
母材と溶接部の間に溝が生じる現象で、溶接速度が速すぎたり溶接電流が大きすぎたりすることが原因で発生します。

・ピンホール
ビード表面に生じた小さなくぼみ穴を指します。
シールドガス不足や溶接部に水分や錆が付着している場合に生じやすい欠陥です。

内部欠陥

・スラグ巻き込み
スラグの除去が十分にできていないと、スラグが溶接金属内に残留しスラグ巻き込みが起こります。

・ブローホール
溶接金属内にガスが残留し空洞となった現象です。
シールドガス不足や水分や錆が付着している場合に起こりやすい欠陥です。

・溶け込み不良
溶接金属がルート面に達せず開先の一部が残った状態です。
溶接電流が低いか溶接速度が速すぎる、開先角度が狭い場合に発生しやすい欠陥です。

・融合不良
接合する金属が十分に溶け合わず、溶接が上手くいかなかった状態です。
溶接位置が悪い場合や溶接電流が低いと起こりやすくなります。

 

溶接部の検査を行うタイミング

溶接部の検査は「溶接前」「溶接施工中」「施工完了後」「稼働後」の主に4つのタイミングで行われます。

 

溶接前

溶接前検査は溶接前の母材を検査します。
開先の形状や寸法、開先面の状態、変色、錆、汚れなどをチェックします。

 

溶接施工中

溶接施工中には初層とスラグ除去後の2回検査を実施します。
初層で形状や溶け込み状態を、スラグ除去後に形状、割れ、溶け込み不良、融合不良、スラグ巻き込みなど、溶接欠陥の有無を検査します。

 

施工完了後

溶接完了後は外観、余盛の形状、アンダーカット、ピット、ブローホールなどの欠陥がないか検査します。

 

稼働後

構造物稼働後に行う検査です。
溶接部の疲労や応力腐食割れなどを検出するのが主な目的です。

 

溶接部の非破壊検査の種類

非破壊検査にはいくつかの方法があり、目的に応じて最適な検査方法で実施します。
ここでは、一般的に利用されている6つの方法をご紹介します。

 

目視検査

目に見える部分は目視検査を実施します。
目視検査は非破壊検査のなかで最も一般的な検査方法です。

表面に傷や異常がないか、検査員の目で実際に調べて確認します。
確認には直接目で見る方法やルーペや拡大鏡で見る方法、顕微鏡を用いるなどの方法があります。

検査員の人員が必要な点や、顕微鏡での検査は疲れるため検査員に負担がかかるというデメリットがあります。

 

RT(放射線透過試験)

放射線透過試験は特に広く普及している非破壊検査方法で、幅広い対象の検査が可能です。

X線を製品に透過させ、放射線の強さの変化により傷の有無を調べる試験法です。
放射線を使うため、内部の状況を画像にして確認できる点がメリットです。

深層部にある傷も検出できるため、大きな製品の検査にも有効です。

 

UT(超音波探傷試験)

超音波が物質の境界面で反射されやすい性質を使って検査する方法です。
放射線よりも安全に製品の内部にできた傷の検出が可能で、広く活用されています。

一方で、複雑な構造の物体の検査には向いていません。

 

MT(磁粉探傷検査)

磁粉を散布して傷を発見する方法で、鉄鋼材料など強磁性体の表面や表面直下の傷検出に利用されます。

検査工程が少なく高感度というメリットがある一方、非磁性体では利用できません。

 

PT(浸透探傷検査)

製品に検査液を浸透させ、表面に発生した傷や割れ、ブローホールなどを検出する方法です。

検査工程が多いというデメリットはありますが、ほぼすべての金属、非金属で利用できるため広く活用されています。

 

ET(渦流探傷試験)

膜厚の測定や表面の傷の検出だけでなく材料の判別にも利用される検査方法です。
前処理、後処理が不要で、電気信号のみで判定ができ、試験が高速でできるため、製造ライン上での検査に適しています。

 

傷像の分類による合否基準

傷像の分類

JIS規格では傷の種類を第1類~第4類まで規定し、分類しています。

・1類
ブローホール、スラグ巻き込みなど、断面積が減ることで強度低下につながるもの。

・2類
細長いスラグ巻き込み、溶け込み不良、融合不良など傷周囲の応力集中リスクが高いもの。

・3類
割れによる傷で応力集中により著しく強度が低下するおそれのあるもの。

・4類
タングステン巻き込みによるもので強度低下には影響しにくいもの。

合否基準

溶接検査の品質基準では母材の使用状況に合わせて規格を参考に合格基準を決めます。

・1類合格
繰り返し荷重を受けて疲労強さを特に考慮する必要がある、または破壊により重大な災害が起こるおそれのある原子力用の構造物などで余盛を削除する溶接継手など。

・2類合格
疲労破壊は考慮しないが、ぜい性破壊防止の目的で鋼材の衝撃値を規定しているような構造物の溶接継手など。

・3類合格
疲労破壊およびぜい性破壊を考慮しない一般構造物の溶接継手。

 

非破壊検査は非破壊検査員が行う

非破壊検査員の主な仕事は金属素材や機械の部品、金属の溶接部などを目視や超音波、放射線などを使って調べることです。
センサーの当て方を変えながら小さな欠陥を何度も検査して確認し、製品の品質を確保します。

非破壊検査員は検査業務に関する資格を保有しています。

 

非破壊検査が製品の信頼性を高め、安全に貢献する

溶接は丁寧に行っていても一定の条件が揃うと欠陥が発生してしまうことがあります。
また、溶接部分は使用していると劣化していく場合があります。

目に見える部分は異常に気付きやすいですが、目に見えない部分は非破壊検査を行うことで品質の向上や安全性を高められます。