アーク溶接・ガス溶接の注意点と安全対策の方法を解説

溶接作業は高いエネルギーを使って金属材料を溶融・凝固しますので危険や災害と隣り合わせです。
そのため、十分な注意を払って作業をする必要があります。

そこで、アーク溶接、ガス溶接の注意点と安全対策の方法をご紹介します。

 

アーク光・スパッタ

溶接時に発生するアーク光は、強い赤外線と紫外線が含まれており、皮膚や目に直接当たると障害を引き起こす可能性の高い光です。
特に紫外線は、急性電気性眼炎、通称目玉焼きを引き起こし、5~6時間後に目に砂が入ったようにゴロゴロし、痛みを生じたり、涙が止まらずに目を開けていられない状態になる可能性があります。

さらに赤外線は長時間目に入ると白内障を引き起こすと言われています。

溶接作業をする際には有害な光やスパッタから顔や目を保護するため、保護面を使用します。
保護面のフィルタープレートの遮光能力は規定されており、使用可能な溶接電流が定められています。

 

ヒューム

ヒュームは溶接熱によって溶融、蒸発した金属蒸気が空気中で冷却され、細かい粒子となったものです。
吸い込むとヒュームが肺に溜まり、「じん肺」を引き起こします。

じん肺は肺の機能が低下していく傷病で、溶接作業者は定期的に健康診断を受けることが定められています。

また、防塵マスクの着用、屋外で溶接作業を行う場合は換気が義務付けられています。

 

感電

アークの出力電流は約5A~1000A、出力電圧は8~40V程度、アークの温度は約5,000~20,000℃です。
人が導電部に触れて感電したときの危険度は電流の大きさや通電時間、電流の経路、電流の種類などによって異なります。
特に電流の大きさは危険度が高く、大きな事故につながる恐れがあります。

被覆アーク溶接棒を使って交流アーク溶接作業を行っていると、作業を中断しているときでも無負荷電圧は出力状態になっています。
うっかり触れると感電の恐れがあるため、作業前には溶接機の電源やスイッチの位置を確認しておき、作業が終了したらすぐに電源を切ることを忘れないことが大切です。

素手や濡れた手袋で電源や溶接機のスイッチ、溶接棒ホルダなど、電気機器の導電部に触れてはいけません。

汗で作業服や軍手が濡れた状態で作業を行い、感電して死亡した事例もありますので、乾いた作業服、絶縁性の安全靴・保護手袋など適正な保護具を着用する必要があります。

 

火災・爆発

ガス溶接では可燃性ガスと酸素ガスを使って高温下で行います。

ガスが充満したボンベの方向に火が戻っていく「逆火」という現象やガス漏れによる火災などの危険性があります。
また、スパッタが周辺の油や布に引火して火災する可能性や、皮膚に当たってやけどをする危険性があります。

溶接作業の周辺の整理整頓を徹底すること、ガス漏れを防ぐ為にガスを出す順番や圧力、混ぜ合わせる量を守ることが大切です。
ガスボンベは高温になる場所や、転倒しやすい場所での保管を避けるとともに、ホースなどの部品も定期点検を行い、経年劣化による事故を防止する必要があります。

現場のルールに従い、手順を守って作業をし、万が一火災が起こった時に迅速に対応ができるよう、消火器、消火栓などの消火設備の位置を事前に確認しましょう。

 

作業着で安全を守る

安全に作業を行うためには作業服と安全保護具を適切に着用する必要があります。
アーク溶接を行う際には強い光や飛散物から皮膚や目を保護するために遮光ガラスがついた溶接マスクが必須となります。

ヒュームやガスを吸い込む恐れがあるため、防じんマスクも必要です。

火花対策として手袋、エプロン、腕カバー、脚カバーを身に付けます。
アーク溶接ではアーク溶接用の手袋を着用します。

溶接時の服装は法令でも定められていますので、ルールに従った服装で作業しましょう。

 

溶接作業に関する法令

溶接・溶断作業を行うにあたって安全・衛生面を規定している法令は以下となります。

労働安全衛生法
労働安全衛生法施行令(施行令)
労働安全衛生規則(安衛則)
粉じん障害防止規則(粉じん則)
鉛中毒予防規則(鉛則)
特定化学物質等障害予防規則(特化則)
酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)
じん肺法
作業環境測定法

溶接で起こる電流や、使用するガスは、取り扱い方を間違えると大きな事故に繋がります。
溶接は高所作業や狭所で作業しなければならないこともあるため、災害防止のために労働安全衛生法をはじめとしたさまざまな法律が整備されています。

 

溶接で必要な資格

作業中の危険性が高いアークまたはガスを使用する作業では作業に従事する前に安全教育を受けることが労働安全衛生法に定められています。
溶接そのものは無資格でDIYなどをすることもできますが、業務として溶接を行うためには資格が必要です。

 

アーク溶接作業者

アーク溶接の作業では重大災害が発生している過去から、労働安全衛生規則で
「事業者はアーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断などの業務に労働者を就かせる際には特別教育を実施しなければならない」と義務付けています。

特別教育とは「アーク溶接等の業務に係る特別教育」のことで、特別教育を受講し、修了証を受領することでアーク溶接作業者の資格を得ることができます。

特別教育では学科と実技が実施され、学科では必要知識と安衛法を始めとした法令を学び、実技では溶接装置の取り扱い、アーク溶接の作業方法を習得します。

 

ガス溶接技能者

ガス溶接も同様に、可燃性ガス及び酸素を用いた溶接作業を行う際は「ガス溶接技能講習」を修了した者でなければ業務に就かせてはならないと規定されています。
ガス溶接技能講習を修了し、修了証を受領することでガス溶接技能者の資格を得ることができます。

ガス溶接技能工講習も学科と実技が実施され、学科ではガス溶接に使用する設備やガスに関する知識、関係法令を学び、実技ではガス溶接の業務に使用する設備の取り扱い等を習得します。

 

安全のためのルールを守ることが大切

溶接は高温の熱を使用し危険な作業ですので、注意しなければならない点が数多くあります。
法律でも安全のためのルールが定められており、防護服も各種あります。

きちんと対策し、法律やルールを守って作業をすれば安全に施工することができます。