アーク溶接の仕組みとは?メカニズム・溶接法の種類について解説

溶接でも最も使用される方法はアーク放電を熱源とするアーク溶接です。

アーク溶接はアーク放電を利用した溶接法で、シールドガスに使うガスの種類によっても技術が細分化されています。
この記事ではアーク溶接の仕組み、アーク溶接の種類、アーク放電のメカニズムについて解説します。

アーク放電のメカニズム

アーク溶接の仕組みの前に、アーク溶接の原理である「アーク放電」の仕組みについてご紹介します。

アーク放電とは

放電にはいくつか形態があり、火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電があります。

アーク放電は気体放電の最も進化したもので、高温度の陰極から熱電子が放出される放電です。
大気中のアーク放電は放電路が弧(アーク)状になるためにアーク放電と呼ばれます。

アーク放電のメカニズム

電極間の気体中に強い電界を加えると、気体の中にある電子が加速され、気体中の中性粒子と衝突して電離を繰り返すうちに荷電粒子が急増します。

荷電粒子の急増により電極間に電流が生まれイオン化が起き、プラズマを生成してその中を電流が流れます。
電極間に膨大な中性粒子が存在するために拡散が小さく、電流が狭い通路に集中した結果、アーク放電へと至ります。

アークの放電の陰極の温度は十分な熱電子を供給するために1,000℃以上になるが一般的で、3,500℃に達することもあります。
高圧力気体中でのアーク放電はガスの温度が高温になり、数万℃にまで達する場合もあります。

アーク放電の種類

アーク放電には「熱陰極アーク」と「電解アーク」の2種類があります。

マイナス極から電子が放出されマイナス極が加熱されることにより熱電子が放出されますが、マイナス極から熱電子が放出されることで発生するのが「熱陰極アーク」です。
一方、マイナス極の表面にある電解から直接電子が放出されて起こるのが「電解アーク」です。

アーク放電を応用した溶接がアーク溶接

陽極と陰極の間が絶縁されていると電気抵抗は無限大にあり、電流を流そうとしても流れません。
そこで2つの電極に圧力をかけると空気の電気抵抗が破壊されて電流が流れ始めます。

放電開始後、電流を増していくとグロー放電を経て、アーク放電に至ります。

アーク放電が起こると高温の熱が発生しますが、この熱を利用して金属を溶かすのがアーク溶接です。
アーク溶接では温度が2万度に達する場合もあり、あらゆる金属を溶かすことができます。

その他のアーク放電を応用した製品

アークランプ

アーク放電で発する光を利用した照明がアークランプです。
高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、熱陰極放電ランプ、希ガス放電ランプなどがあります。

キセノランプをはじめとした希ガス放電ランプはアーク放電開始とともに瞬時に強い光放射が開始されます。
水銀ランプやメタルハライドランプなどの金属蒸気放電ランプは、アーク放電を開始しても放電空間内の空気が蒸発するまでの時間を要するため、強い光放射の開始までに数分を要することがあります。

アークランプは道路や広場、グラウンド、体育館などの照明光源として広く利用されています。
さらに低圧のアークを利用した照明には蛍光灯、水銀灯、ナトリウム等、カメラのストロボなどがあります。

アークライター

アークライター(プラズマライター)は、アーク放電を利用したライターです。

アーク放電を利用して火花を起こし点火する仕組みなので風があっても火が消えません。
ガスやオイルも必要なく、環境にやさしいという特徴もあります。

アーク溶接の仕組み

アーク溶接では電極(溶接棒・ワイヤ)にプラス、母材にマイナスの電圧をかけます。
電圧をかけると母材から電極へアークが発生します。

溶接で使用するアークは一般的に電極から母材に向かって広がり、形はベルのような形状で発生します。
このとき、アークの出力電流はおよそ5A~1,000A、出力電圧は8~40V程度です。

アークで発せられる温度は中心部で約16,000℃、外周部で約10,000℃と言われており、これは太陽の表面温度以上です。
鉄の融解温度は約1,500℃ですので溶接には十分な温度となります。

アーク溶接の種類

アーク溶接には大きく「消耗電極式(溶極式)」と「非消耗電極式(非溶極式)」があります。
両者の違いは電極が溶けるか溶けないかで、電極が溶融するのが消耗電極式、電極は溶融せず溶接棒(溶加材)を母材へ溶かし込むのが非消耗電極式溶接です。

消耗電極式アーク溶接

消耗電極式アーク溶接は母材とほぼ同じ成分の溶接棒やワイヤーを使用します。
電極となる溶接棒(ワイヤー)が溶加材の役割をし、自動で供給されるため「半自動溶接」とも呼ばれます。

消耗電極式アーク溶接には

・被覆アーク溶接
・炭酸ガスアーク溶接
・マグ(MAG)溶接
・ミグ(MIG)溶接
・サブマージアーク溶接
・セルフシールドアーク溶接
・スタッド溶接

があります。

非消耗電極式アーク溶接

非消耗電極式アーク溶接は、金属の中で最も融点の高いタングステンを電極に使用し、アーク放電を行います。
電極は溶加材となりませんので、別で溶接棒などを用意して溶接します。

消耗電極式アーク溶接には

・ティグ(TIG)溶接
・プラズマアーク溶接

があります。

シールドガスとは

アーク溶接は使用するシールドガスの種類により、溶接法や溶接機が異なります。

シールドガスとは溶接部分を大気から遮断するために使用するガスのことです。

大気中には酸素、水素、窒素などが存在し、アーク溶接の箇所に触れると金属が酸化したり窒化したりして、水疱が発生するなどの溶接不良の原因となります。

溶接不良を避けるため、溶接部分にはアルゴンやヘリウムのような不活性ガスや炭酸ガスを用いて大気と溶接箇所を遮断します。

広く使われているアーク溶接

アーク放電を利用した技術にはアークランプやライター、映写機、スポットライト、プラズマ切断などさまざまなものがあり、その代表的なものがアーク溶接です。

アーク溶接にはさまざまな溶接法が存在するだけでなく、シールドガスにより安定した溶接精度が期待できるため、広く活用されており、自動化にも適している溶接法です。

アーク溶接と一口に言ってもシールドガスの種類などによって多くの手法に分類されますので、製品の仕上がりや精度、かかるコストなどにより溶接法を使い分けることが大切です。