アーク溶接の基礎知識 アーク放電とは?アーク溶接の種類・資格

溶接にはさまざまな手法がありますが、アーク溶接は幅広い分野で利用され、金属加工では必須ともいえる溶接法です。
この記事ではアーク溶接とはどんなものか、アーク溶接法の種類など、基礎知識をご紹介します。

 

アーク放電とは

アーク放電は気体放電現象の一種です。
2つの接触している導電体を引き離すときに、導電体の間を流れていた電流が空中を流れ続けようとしたときに起こる現象です。

通電中のプラグをコンセントから引き抜いた際にスパークを見たことはないでしょうか。
あれもアーク現象の1つです。

アーク放電の特徴は高温で強い光を発することです。
この特徴を利用して電気溶接や電気炉の熱源やスポットライト、蛍光管の光源として利用されています。

アーク放電は狭い通路内に電流が集中したときに起こります。
狭いところに電流が集中すると電子と中性子、イオン、中性粒子同士が衝突します。
これにより高いエネルギーが発生し、それが熱や光といったエネルギーに変換されるのがアーク放電の原理です。

 

アーク放電を利用した技術

アーク放電で起こる大量の電流や熱は技術に利用されています。
アーク放電を利用した主な製品・技術は以下の3つとなります。

 

アーク溶接

アーク放電の際に発生する熱を溶接に利用したものです。
離して設置している2つの電極に圧力をかけることで空気で絶縁が破壊されて電流が流れます。
電流が流れるとアーク放電が起こり、高温の熱が発生し、この熱を利用したものがアーク溶接です。

詳しくは下の項でご紹介します。

 

照明ランプ

アーク放電はアーク照明にも活用されています。

アーク照明はアーク放電が起こる際に発する光を利用していますが、アーク放電は一瞬で大量の電流と熱を発生させるので、照明に利用する場合には電流を一定に保つため、安定器を使用します。

アーク照明には高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、熱陰極放電ランプなどさまざまな種類があります。

 

ライター

アーク放電は「プラズマライター」と呼ばれるライターにも利用されています。

プラズマライターはアーク放電を利用して火花を起こして火をつけるため、風があっても火が消えないという便利なライターです。
さらに、ガスやオイルも必要ないため、環境にやさしいライターです。

 

アーク溶接とは

アーク溶接はアーク放電による熱を利用して、母材の金属と溶接棒を溶かして接合する「融接」に分類される溶接法です。

アーク溶接は溶接機の2つのケーブルにそれぞれ溶接棒と接合したい母材を繋ぎます。
溶接棒と母材双方の電極に電圧をかけて軽く接触させると、溶接棒と母材の間にアーク放電が発生します。

この時に発生する高熱を利用して金属を溶かして接合させます。

アーク放電の出力電流は5~1000アンペア、出力電圧は8~40ボルト、温度は5,000~20,000℃に達します。
鉄の融解温度は約1,500℃ですので、アーク放電による熱は鉄を溶かすには十分な温度です。

アーク溶接にはさまざまな種類があり、加工できる製品も幅広いため、造船所、鉄工所、建設現場、自動車工場など、製造から建設まで多くの場所で活用されています。

 

消耗電極式溶接の種類

アーク溶接機には放電電極が溶ける「消耗電極式」と放電電極が溶けない「非消耗電極式」があります。

消耗電極式溶接では母材とほぼ同じ成分のワイヤー、溶接棒を使用します。
電極となるワイヤーが溶加材の役割となり自動で供給されます。

消耗電極式溶接には
・被覆アーク溶接
・炭酸ガスアーク溶接
・MAG溶接
・MIG溶接
・サブマージアーク溶接
・セルフシールドアーク溶接
・スタッド溶接
があります。

消耗電極式溶接はシールドガスの種類などによって溶接法が異なります。
また、使用するガスによって適した金属や形状が異なるため、適切な手法の選択が求められます。

 

非消耗電極式溶接の種類

非消耗電極式溶接の特徴はタングステンを電極に使用し、アーク放電のみを行う点です。
非消耗電極式で電極が溶接中にほとんど溶融しないという特徴があります。

非消耗電極式溶接には
・TIG溶接
・プラズマアーク溶接
があります。

 

アーク溶接に必要な資格

溶接の資格は種類が多く、溶接工として必須の資格から管理者向けの資格まで取得難易度も幅広くなっています。
多くの資格がある中で、アーク溶接の業務で必要な資格は「アーク溶接作業者」です。

 

アーク溶接等の業務にかかる特別教育

アーク溶接作業者は「アーク溶接等の業務にかかる特別教育」を受講することで取得できます。
学科11時間、実技10時間の合計21時間、講習は3日間に渡って行われます。

「アーク溶接特別教育のカリキュラム」

学科
①アーク溶接等に関する基礎知識…1時間
②アーク溶接装置に関する基礎知識…3時間
③アーク溶接等の作業の方法に関する基礎知識…6時間
④関係法令…1時間

実技
①アーク溶接装置の取り扱い及びアーク溶接等の作業の方法についての実技教育…10時間

受講資格は満18歳以上、資格の更新等は必要ありません。
カリキュラムを全て受講し、交付される修了証の受領をもってアーク溶接作業者の資格を取得することができます。

資格の難易度は高くはありませんが、アーク溶接作業に従事するには特別教育の受講による資格取得が義務付けられています。

 

アーク溶接特別教育が必要な理由

アーク溶接は労働安全衛生法に定められた「危険・有害な業務」に該当します。
アーク溶接から発生する火花はさまざまな労働災害を招きます。

アーク溶接中の労働災害には感電、アーク光による眼の炎症、火傷、可燃物への引火爆発などが挙げられますが、実際に感電や火傷による死亡事故が起こっていますので十分な知識と安全対策が大切です。

発生した労働災害の中にはアーク溶接特別教育を未受講であったことにより発生した事例もありますので、特別教育は労働災害を防ぐための知識を身に付けるための重要なものであり、アーク溶接に携わる人には必須の資格です。

 

奥が深いアーク溶接

アーク溶接は歴史が深く、手法もさまざまです。
溶接業者は製品やその材料に適した溶接法を選択し、適切に溶接を行っています。

また、安全性の高い溶接を行うため、作業員のスキル向上に積極的で、多くの資格を取得している技術力の高いスタッフが揃っている溶接業者も存在します。

製品の質を左右するためにも、技術力の高い溶接業者を選択することが大切です。