‐ステンレス溶接は難易度が高い?溶接方法の種類と注意点‐

金属は溶接や溶断などで必要な形に加工することができますが、ステンレスの溶接は非常に難しいとされています。

ステンレスにはいくつかの種類があり、それぞれの特徴に合わせて溶接しなければ高温割れが起こったり脆くなりやすいためです。

今回は、ステンレスの溶接方法と注意点について解説します。

 

ステンレスとは

ステンレスとは

ステンレスは英語で「Stainless Steel」と表記され、錆びやすい鉄に代わる金属として発明されました。

ステンレスは鉄(Fe)を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を10%以上含む錆びにくい合金で、紀元前1500年ごろに製鉄が本格的に始められた鉄に比べて歴史は浅く、発明されてからまだ100年ほどしかたっていない新しい金属です。

その錆びにくい性質から、ほかの材料と比較すると使用量が多く、生産量を見ると国民一人当たり熱間圧延材ベースで30kg程度使用されています。

 

ステンレスが錆びにくい理由

鉄が「錆びる」という現象は、酸素と鉄が結びついて「酸化鉄」を生み出すことで起こります。

ステンレスは鉄にクロムを混ぜることで、表面に不動態皮膜という膜を形成します。
クロムは鉄よりも酸素と結びつきやすいため、鉄が酸化する前にクロムが酸化し、酸化被膜となって表面を覆います。
この膜は1ナノメートルときわめて薄く、無色透明なので肉眼では確認できませんが、傷がついてもすぐに再生するため、錆びの発生を防ぎます。

 

ステンレスに磁性がない理由

ステンレスは磁石にくっつかないことで知られています。

ステンレスに磁性がない理由は、ステンレスを製造する際に錆びにくさを高めるために加えるニッケルが関係しています。
ニッケルが含まれることにより、ステンレスは磁石にくっつかなくなります。

 

代表的なステンレスの種類

マルテンサイト系ステンレス鋼

マルテンサイト系ステンレス鋼は、炭素の含有量が多く、主に焼き入れと焼き戻しをしたものを使用します。
高い強度と耐摩耗性、靭性が特徴的です。

不動態皮膜の形成に必要なクロムの含有量は質量パーセント濃度で11~18%で、他のステンレス鋼よりも少なく、耐食性が劣ります。

 

フェライト系ステンレス鋼

フェライト系ステンレス鋼は、クロムのほか、モリブデンや銅などを添加したステンレス鋼で、常に磁性を持っています。

マルテンサイト系に比べて成形加工性と耐食性、溶接性に優れている一方で、強度がステンレス鋼のなかでは低いという特徴があります。

 

オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼は延性、靭性に優れたステンレスで、プレス成形や冷間加工に適したステンレスです。

溶接性も良く、溶接組み立て構造にも使用されます。
熱処理により非常に高い硬度になること、ステンレスのなかでも耐食性が非常に優れている点が特徴です。

 

析出硬化系ステンレス鋼

析出硬化系ステンレス鋼は析出硬化により強度を高めたステンレス鋼です。
原材料が高く、製造に高度な技術が必要なことからステンレス鋼のなかでも高価な素材です。

強度と耐食性のバランスに優れており、磁性を持っています。

 

ステンレスの溶接方法

被覆アーク溶接

被覆アーク溶接は、現代のステンレス溶接のなかで最も用いられている方法です。
材料となるステンレスと同種のステンレス棒に、被覆材(フラックス)を塗布したものを電極として使用します。

フラックスは溶接時の高温下で溶接部のシールドとして機能します。

被覆アーク溶接はすべて手作業で行うことができるため、細部の溶接に向いています。

 

TIG(ティグ)溶接

TIG溶接は、電極にタングステンを使用し、別の溶加材を使って溶接する溶接方法です。
溶接部に不活性ガスのアルゴンやヘリウムガスを吹きかけてシールドし、溶接部分の強度が下がるのを防止します。

精度が高く美しい仕上がりになる一方で、溶接に時間がかかること、電極のタングステンや不活性ガスのアルゴンやヘリウムガスが高価なため、コストがかかる点がデメリットです。

 

サブマージアーク溶接

サブマージアーク溶接は被覆材を先に塗布し、裸溶接ワイヤを電極として自動溶接する方法です。

厚みのあるステンレス板の溶接加工でよく用いられます。

 

レーザー溶接

光源を集中レンズで1点に集め、強力な光のエネルギーにより金属を局所的に溶かして溶接する方法です。

アーク溶接に比べて発生する熱による影響が少ないという特徴があります。
そのため、変形や焼けが少なく、歪みが気になる製品に効果的です。

ほかの溶接方法に比べて出力が低いため、薄いステンレスや細かな加工に向いています。

 

抵抗溶接

抵抗溶接は材料を加圧し、電気を通して発生した抵抗熱で溶接する方法です。
ほかの溶接方法に比べて強度が高く、溶接速度も速い点が大きな特徴です。

 

ステンレス溶接の注意点

マルテンサイト系ステンレスは急速に冷やすと割れる可能性がある

マルテンサイト系ステンレスは急速に冷やすと硬くなりやすく、溶接部分が割れてしまう可能性があります。
そのため、溶接後は急冷せずに730~790度の加熱を保持すること、加工前に200~400度で余熱をする必要があります。

加工前後の温度管理が困難な場合には割れにくいフェライト系ステンレスを選択するのも一つの方法です。

 

フェライト系ステンレスは熱で粗粒化し脆くなりやすい

フェライト系ステンレスは熱を加えても硬くなりにくく溶接部分が硬化しにくい一方で、加熱された部分が粗粒化により脆くなりやすいという特徴があります。
そのため、溶接時にはできるだけ粗粒化する部分を小さくすることがポイントとなります。

融点近くの高温に達する時間をできるだけ短くし、溶接後はできるだけ冷却時間を短くする、余熱温度が150度以上にならないようにすることが大切です。

 

オーステナイト系ステンレスは高温割れを起こしやすい

オーステナイト系ステンレスは溶接部分が高温割れを起こしやすいため注意が必要です。

厚みのあるステンレス板や拘束度が大きい継手を使用すると起こりやすいため、急速冷却できるように、低い温度で溶接できる方法、条件で溶接すること、溶接後1,010~1,120度で約30分加熱し、金属構造を安定させたあと急冷することがポイントとなります。

また、溶接範囲が狭いレーザー溶接が有効です。

 

ステンレスは種類に応じた溶接方法が求められる

ステンレス溶接は金属構造や化学成分によって特徴が大きく異なり、選択すべき溶接方法が異なるため、難易度が高いことで知られています。

ステンレス溶接を希望する際は、ステンレスの特性と溶接方法を熟知した加工業者を選ぶことが大切です。