‐溶接作業に必須の溶接面の必要性と種類・自動遮光溶接面とは?‐

近年では溶接・溶断作業の技術開発は目まぐるしく進化しており、それに伴い溶接の作業環境の多様化、複雑化が進んだことで、作業者の安全を確保して作業を行うことが不可欠となっています。

溶接作業では、有害な光線にさらされるため、目や顔を保護するための溶接面が欠かせません。
また、溶接面には多くの種類があり、作業に適したものを使用する必要があります。

今回は、溶接面の必要性や種類について解説します。

 

溶接面の必要性

溶接時には非常に強い光であるアーク光が発生します。
アーク光には可視光のほかに有害な赤外線や紫外線を含み、これらの光を直視してしまうと目がゴロゴロとして痛みを感じたり涙が止まらないなどの症状が数日間続くことがあります。
そのため、溶接時には目を守るための遮光フィルターを備え付けた溶接面が必要です。

有害な光による具体的な障害には次のようなものがあります。

 

紫外線(200~380nm)

紫外線による障害には角膜の表層部にダメージを受けたことが原因の「電光性眼炎症」を発症することが多くあります。
目に異物が入ったようにゴロゴロとした感じがあり、涙が止まらない、まぶたの痙攣などの急性症状が数時間後に現れます。

電光性眼炎症は通常、48時間程度で軽減していきます。

 

可視光(400~570nm)

視力低下、視野の一部が見えなくなる、かすんで見えるといった「光網膜炎」を発症する可能性があります。
症状は数週間から数か月程度続きます。

 

労働安全衛生規則による規定

労働安全衛生規則では、溶接作業等の有害な光線にさらされる業務に従事する労働者の眼障害を予防する見地から、しゃ光保護具について規定を設けています。

第325条 強烈な光線を発散する場所

1.事業者は、アーク溶接のアークその他強烈な光線を発散して危険のおそれのある場所については、これを区画しなければならない。
ただし、作業上やむを得ないときは、この限りではない。

2.事業者は前項の場所については適当な保護具を備えなければならない

 

第593条 呼吸用保護具等

1.事業者は、著しく暑熱又は寒冷な場所における業務、多量の光熱物体、低温物体又は有害物を取り扱う業務、有害な光線にさらされる業務、ガス、蒸気又は粉じんを発散する有害な場所における業務、病原体による汚染のおそれの著しい業務その他有害な業務においては、当該業務に従事する労働者に使用させるために、保護衣、保護眼鏡、呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない。

2.事業者は、前項の業務の一部を請負人に負わせるときは、当該請負人に対し、保護衣、保護眼鏡、呼吸用保護具等適切な保護具について、備えておくこと等によりこれらを使用することができるようにする必要がある旨を周知させなければならない。

 

溶接面の種類

溶接面には主に次の5種類があります。

手持ち型

昔からあるタイプの溶接面で、面の下に取っ手が付いており、これを片手で持って作業します。

溶接面にはJIS規格準拠の遮光プレートサイズ(50×105mm)のプレート差込窓が設けられています。
遮光プレートに溶接のスパッタや汚れ、傷が付着するのを防ぐためにカバープレートを遮光プレートの外側にセットして使用します。

価格が安い点がメリットですが、作業するときは両手が使えないというデメリットもあります。

 

かぶり型

遮光プレートなどを設置して使うなど、仕組みは手持ち型と同じで、手で持たずにかぶって使えるタイプの溶接面です。
手持ち型と同様に価格が安い点がメリットです。

スパッタにより素ガラスが汚れると交換が必要になり、その分コストがかかるというデメリットがあります。

 

革製遮光面

面の部分が革製の溶接面です。
折り畳んで持ち運べるため、コンパクトな点が大きなメリットです。

一方で、顔が蒸れたり、革特有のにおいを感じるというデメリットがあります。

 

自動遮光面

センサーと液晶フィルターを搭載した溶接面で、自動的に視界を変化させる機能があります。
アーク光を検知すると遮光面を暗く、アーク光が消灯している場合は明るくなるように自動で変化させます。

 

溶接用ゴーグル

ゴーグル型の溶接面です。
コンパクトでさまざまなヘルメットと併用できるというメリットがあります。

 

遮光面に取り付ける遮光ガラスの選び方

遮光率

溶接面は遮光面に遮光ガラスを取り付けて作業することで、アーク光を遮光できるようになります。
遮光ガラスには4~14番までの保護レベルがあり、それぞれ遮光度合いが異なるため、作業に合った遮光率を選びます。

 

遮光ガラスの色

溶接作業者にとってはアーク光が何色に見えるかは重要です。
黄色、緑色、青色の3種類の遮光ガラスがありますが、黄色は見えにくく明るく見えるため目が疲れやすいです。

一方で緑色は見えやすく作業しやすいという特徴があります。
また、青も目に優しくて疲れにくいとされています。

このように、ガラスの色によって目への負担が変わってきますので、疲れにくいガラスを選ぶ必要があります。

 

自動遮光溶接面とは

自動遮光溶接面は、ただのガラス板ではなく液晶タイプの溶接面です。
センサーと液晶フィルターを搭載し、自動的に視界を変化させる機能を持っています。

溶接の光が出ているときには暗く、溶接を止めたら明るくなるように自動で明るさを調節します。

液晶の明るさや光への反応速度は製品により異なります。
高価なタイプになると光の感度調節機能が付いているものがあります。

通常の感度では太陽光や照明にも反応して光を調節してしまうため、作業効率が悪くなる場合がありますので、快適に作業するためには一定以上の機能を持ったものが必要になります。

また、自動遮光溶接面の液晶は遮光までの反応速度に幅があります。
反応速度が早ければその分溶接の光が目に与えるダメージを小さくできます。
しかし、最近発売されているタイプであればどれを使っても違和感があるものはなく、極端に遅いものでなければ問題ありません。
参考としては1/15000~1/25000がスタンダードな遮光速度です。

 

安全のために溶接面は必要不可欠

溶接では強い光が発生します。
そのため、法律でも保護面の使用が定められており、作業者は安全でかつ快適に作業できる溶接面を選ぶことが求められます。

その他、溶接作業では溶接ヒュームによる健康被害への対策など、安全に溶接作業が行われるよう、法律でさまざまなルールが設けられています。