アーク溶接の原理となる「アーク」とは?アーク放電の仕組みと種類

溶接は歴史が古くさまざまな方法がありますが、代表的なものが1880年代に発明されたアーク溶接です。
現在ではアーク溶接が広く活用されていますが、そもそもアークとはどのような現象なのでしょうか。

この記事ではアーク放電とはどのようなものか、アーク溶接の種類などについて解説します。

アーク溶接とは

アーク溶接は金属を溶かして接合する「融接」の一種で、幅広い産業分野で用いられている現代では一般的な溶接法です。

一般的に溶接機という機械を使用し、溶接棒またはワイヤーの電極にプラスの電圧を母材にマイナスの電圧をかけ、アークを発生させ、この熱を活用して金属を溶融して接合します。

アーク溶接は主に使用するガスや装置などにより種類が細分化され、金属や製品に適した溶接法が採用されています。

アークとは

アーク放電とは

アークとは2つの電極間で放電させることによってできたプラズマの一種です。

2つの接触している導電体を引き離すときに、導電体の間を流れていた電流が空中を流れ続けようとする現象です。
身近な例でいえば通電中のプラグをコンセントから引き抜くときに見られるスパーク現象がアーク現象です。

アーク放電はアーク溶接や蛍光灯などに活用されています。

アーク放電の原理

アーク放電は狭い通路の中に電流が集中すると起こります。
狭い場所に電流が集中すると電子や中性子、イオンの衝突や、中性粒子同士の衝突を繰り返します。
これらの衝突が起こると高い電気エネルギーが発生し、これが熱や光に変換されて放電が起こるのがアーク放電の仕組みです。

大気圧中のガスは室温では絶縁体ですが、アルゴンガスなどで大気を遮蔽し、その中で電子が次々と衝突電離し、電子やイオンが急速に増殖され、両電極間で連続的に電流が流れるようになり、アーク放電へと至ります。

グロー放電からアーク放電が発生する

電極間に印加する電圧を上げ電界を強くすると、電極間にある電子が電界により加速し、気体中の分子に蓄積して電離します。
電離によって生成された+イオンが陰極に衝突すると負極から電子が放出されます。
この電子の放出により電子が陰極から電極間の空間に供給され、電子が陽極と陰極の間を行き来することでグロー放電という大きな電流となります。

グロー放電の状態でさらに印加する電圧を高くして電流を増加させるとアーク放電となります。
アーク放電になると激しい光と熱を発します。

アーク放電は放電の最終形態です。

アークの温度は10,000度を超える

アークはアルゴン原子、アルゴンイオン、電子で構成され、この中に電流とは逆に流れる電子がプラス電極へ高温状態のエネルギーを運びます。
アークの温度は10,000度を超える高温で、溶接材料を溶かすことができます。

溶接で使用するアークは中心部で約16,000度、外周部で10,000度と言われており、これは太陽の表面温度以上となります。
鉄の融点は約1,500度ですので、アークは鉄を溶融させるのに十分な温度であるといえます。

アーク放電の種類

アーク放電の放電形式は大きく分けて「熱陰極アーク放電」と「冷陰極アーク放電」の2種類があります。

熱陰極アーク放電

熱陰極アーク放電は陰極から電子が放出されることにより、陰極が加熱されて起こる熱電子放出によるアーク放電です。
陰極がタングステンや炭素など高沸点の素材だと熱陰極アーク放電が起こるとされていますが、まだ不明な点が多いとされています。

冷陰極アーク放電

冷陰極アーク放電は陰極表面に存在する強い電界により直接電子が放出されるアーク放電で、「電界アーク」とも呼ばれています。
陰極が銅や鉄などの低沸点の素材の場合には、冷陰極アーク放電になるとされていますがまだはっきりと分からないことが多いのが現状です。

アークの発見とアーク溶接の開発

アークの発見は19世紀にまで遡ります。

1808年にイギリス王立研究所の研究者がボルタ電池を使い、2本の炭素棒の先端でアーク放電が起こり、発光することを発見しました。
1815年に大規模なアーク灯の実験を行い人々を驚嘆させ、以降数十年間アーク灯の実用化に貢献しました。

その後、1880年ごろにフランスで蓄電池の鉛板の接合に炭素アーク熱を利用しはじめたことから工夫と改善が重ねられ、実用的アーク溶接法の開発に成功し、特許を取得しました。

これをもとにロシアとアメリカでそれぞれ金属電極と金属板の間に発生させたアークを用いて金属板を溶融溶接する、現在の被覆アーク溶接のもとになる「金属アーク溶接法」が開発され、それ以来アーク溶接の技術は急速に発展し、工業製品に利用されるようになりました。

特に第二次世界大戦中には現在の主流となるさまざまなアーク溶接の技術が開発され、生産技術を大きく向上させました。

アーク溶接の種類

アーク溶接には溶接棒やワイヤーが溶ける「消耗電極式(溶極式)」と溶接棒やワイヤーが溶けない「非消耗電極式(非溶極式)」があります。

消耗電極式アーク溶接

消耗電極式は母材とほぼ同じ素材の溶接棒またはワイヤーを使用します。
電極となるワイヤーが溶加材の役割をし、自動で供給されるため、半自動溶接とも言います。

消耗電極式アーク溶接には
・被覆アーク溶接
・マグ溶接
・ミグ溶接
・エレクトロガスアーク溶接

などがあります。

非消耗電極式アーク溶接

非消耗電極式溶接では、電極にタングステンが使用され、アーク放電のみを行います。
そのため、溶加材は別途溶接棒などを用意する必要があります。

精密さが必要な溶接をする場合には非消耗電極式アーク溶接が向いています。

非電極式アーク溶接には

・ティグ溶接
・プラズマ溶接

があります。

アーク溶接は幅広く活用されている

溶接の世界で幅広く活用されているアーク溶接の原理について解説しました。
アーク現象が発見されてからアーク放電については研究が進み、溶接や電灯など、さまざまな分野で活用されています。
まだまだアークに関しては不明な点もありますので今後の研究により新たな技術が誕生していくことでしょう。

溶接方法でもアーク溶接と一口に言ってもさまざまな手法があります。
多くの手法をマスターしておくと、作業にもバリエーションが出て製作できる製品にも幅が出ます。

溶接機の機種も多いため、習得していくには奥深い技術であるといえます。