ーレーザー溶接とは?レーザーを発生させる原理とレーザー溶接の特徴ー

 

金属加工において重要な役割を果たす溶接には、さまざまな方法があります。
なかでもレーザー溶接は、人工的に造られた光を集光し対象物を溶融させて接合する方法です。

今回は、レーザー溶接とはどのようなものか、原理や特徴などについて解説します。

 

レーザー溶接とは

レーザー溶接は融接の一種で、金属素材にレーザー光を照射して溶かし、金属が凝固することによって接合させる溶接方法です。

レーザー溶接ではレーザー溶接機を使用します。
レーザー溶接機は、レーザー発振器、光路、レーザー集光部、駆動部、シールドガス系で構成されています。

集光部の集光レンズによりレーザー光が集光され、金属素材を溶かすのです。

 

レーザーとは

レーザー溶接に使用されているレーザーは、私たちの生活のさまざまな場面に関わっている光に関する科学技術です。
Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(LASER)の頭文字を取ったもので、直訳すると「誘導放出による光増幅放射」という意味です。

一般的にレーザーと聞くと、レーザープリンターやレーザー脱毛、レーザーポインターなどが挙げられます。

 

レーザーを発生させる原理と流れ

レーザー発振器でレーザー光を発信する流れは次のようになります。

1.励起
レーザー発振器に励起光を入射すると、レーザー発振器内にある原子中の電子が光を吸収し、原子が基底状態から励起状態になります。

2.自然放出
励起状態となった原子中の電子はエネルギー準位が上がります。
エネルギー準位の高い原子は不安定なため、安定するために自らエネルギーを放出し、低いエネルギー状態に戻ろうとします。これが遷移です。
このときエネルギー準位が高い状態と低い状態の差のエネルギー光が自然放出されます。

3.誘導放出
自然放出された光は同じように励起状態にあるほかの原子に衝突します。
励起状態にある原子にその光が当たると、光に誘導されて励起状態の原子は次々と同様の遷移を起こします。
これが誘導放出です。

4.反転分布
誘導放出を利用してレーザー光を発信させるためには励起状態の電子密度を基底状態の電子密度よりも高くし、反転分布状態にする必要があります。
反転分布状態は電子に吸収される光の数を誘導放出される光の数よりも少なくする必要があり、この状態にすることで効果的にレーザー光を作り出せます。

5.振幅
反転分布状態で一つの電子が光を自然放出すると、その光により別の電子が光を誘導放出して、光の数が連鎖的に増えて強い光となっていきます。
さらにレーザーは2枚のミラーが設置された共振器を反射し続けることにより増幅されていきます。
誘導放出による増幅現象は共振と呼ばれ、共振器に設置された対のミラーによって行われるのです。

 

レーザー溶接の原理

レーザー溶接は、レーザーを作る発振部、発生したレーザーを伝送する光路、レーザーを収束させる集光部など、さまざまな部品により構成されます。

発振部は、YAG結晶などを光源とし、生じた光をミラーで繰り返し反射させて増幅させることでレーザー光を精製する部分です。
精製されたレーザー光は、光ファイバーやミラーで作った光路で伝送されます。

伝送されたレーザー光は集光部に入り、レンズやミラーで適切なスポット系に集光されて金属素材(母材)に照射されます。
ただし、このままでは母材の一点にしかレーザーが照射されないため、駆動系により集光系や母材を動かすことで設計通りの溶接が可能です。

さらに、大気により接合部が酸化、窒化して品質が悪化するおそれがあるため、母材付近にアルゴンなどのシールドガスを噴射するといった機構もあります。

 

レーザー溶接で用いるレーザー光

レーザー溶接で使用するレーザー光は、アーク溶接で使用するアーク光比べて極めて小さく絞り込めます。
集光レンズで高密度化されたエネルギーにより、局所溶接や融点の異なる材料の接合が可能です。

また、レーザー溶接に使用する高出力レーザー光は、波長、エネルギー密度といったビームの収束性、さらにレーザーの輝度やビームモードなどの光の品質をコントロールできます。
そのため、レーザー溶接が得意とする大きく厚い板から薄板にわたる繊細な溶接が可能となります。

 

レーザー溶接の特徴

レーザー溶接には主に以下のような特徴があります。

 

局所的な溶接に向いている

レーザー溶接で使用されるレーザー光は、アーク光よりも小さい面積に絞り込むことができます。
そのため、局所的な溶接に適しています。

 

異なる金属素材でも接合可能

レーザー溶接は光のエネルギーを集光レンズで高密度化することで、融点の異なる金属同士の溶接も可能です。
また、セラミックやプラスチックなどの異種材料との接合も可能です。

 

微細な溶接でも失敗しにくい

レーザー溶接は接合部分の周囲への熱影響が少ないのも特徴です。
そのため、溶接痕を細くしたり加工反力を抑えることが可能です。

 

溶接設備の自動化が可能

レーザー溶接機は真空チャンバーが必要ない分、電子ビーム溶接機に比べてコンパクトです。
また、コンピューター制御により溶接を完全に自動化できます。

 

目的に応じて溶接方法の選択が可能

レーザー溶接ではスポット溶接やシーム溶接が可能です。
スポット溶接ではキーホールを発生させるキーホール型溶接、シーム溶接ではキーホールを発生させずにスパッタを出さない熱伝導型溶接を行います。

 

レーザー溶接が使用されている製品

レーザー溶接により製造されている製品は多岐にわたります。
レーザー溶接で製造されている製品は代表的なものとして次のようなものがあります。

自動車部品、船舶部品、鉄道車両、航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機、電気機器、精密機械、工作機械部品、建設機械、医療機器、食品製造機器、建築金物、アクセサリー類、太陽電池、火力・水力・原子力発電、石油化学プラント、理化学プラント

 

レーザー溶接はメリットの多い溶接法

レーザー溶接は指向性・集中性の良い波長の光をレンズで集め、高いエネルギー密度のレーザー光を熱源とした溶接方法です。

レーザー光の出力を調整することにより、幅の狭い溶接や、異なる素材どうしの溶接が可能となります。
そのためメリットも多く、さまざまな製品に活用されています。