アーク溶接の安全対策 溶接作業の適切な安全対策と安全教育とは

溶接作業は高いエネルギーを使用して金属材料を融解・凝固させます。

高温が出る作業となりますし、スパッタと呼ばれる火花や強い光が出るため
さまざまな危険や災害、健康被害と隣り合わせです。

災害の防止には安全対策が必須となります。

そこで、アーク溶接で起こり得る災害とその安全対策と安全教育についてご紹介します。

アーク溶接とは

アーク溶接は空気中のアーク放電と呼ばれる放電現象を利用し
同じ金属同士をつなぎ合わせる溶接方法です。

母材と電極の間に発生させたアークによってもたらされる高熱で
母材と溶加材を融解させて分子原子レベルで融合一体化します。

アーク放電ではおよそ5,000~20,000度に達します。
鉄の溶融温度は約1,500~約2,800度なので鉄と鉄を接合するのに十分な温度です。

溶接の際、金属が空気に触れている状態では
溶けた金属が酸化や窒化を引き起こし溶接不良を起こすことがあります。

そのためアーク溶接時にシールドガスを使い、接合部が空気に触れないようにします。
シールドガスにはアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスが使われるのが一般的です。

アーク溶接は生産工場や建設現場、造船、車の製造など多岐に渡り行われる作業であるため
一度技術を身につければ生涯役立つとも言われています。

溶接作業の安全に関してはさまざまな法律で規定がある

アーク溶接では高いエネルギーで金属材料を溶融させて結合します。
その時に強い光や熱と共にスパッタやヒューム、ガスが発生するため
これらにより災害が起こる可能性があります。

溶接電源は高圧なため取り扱いを誤ると電撃事故につながります。
作業環境が災害を引き起こすこともあり、災害防止のためにさまざまな法律で規定があります。

溶接の安全に関する規定は主に以下の法律で定められています。

・労働安全衛生法
・労働安全衛生施行令
・労働安全衛生規則
・有機溶剤中毒予防規則
・酸素欠乏症等防止規則
・高気圧作業安全衛生規則
・鉛中毒予防規則
・じん肺法
・粉じん障害防止規則

アーク溶接作業での安全対策

赤外線や紫外線による皮膚の障害の防止

溶接作業では熱や光により皮膚が日焼けを起こしますが
光がまわりの壁や金属に反射しても起こります。
また、やけどは高温のスパッタを浴びたりするだけでなく熱や光でも日焼けは起こります。

そこで、全身を保護するために革製または難燃性布製のエプロンや溶接用手袋などの防護具が必要になります。
素材が化学繊維では熱で溶けやすく、木綿などの自然素材では
火が移る可能性もありますので、溶接の防護に適した素材の防護具を選ぶことが大切です。

強い光線による目の障害の防止

溶接では強い光や赤外線、紫外線が発生します。
これらの光を長時間直視していると目が炎症してしまいます。

症状としては約5時間~約6時間後に目がゴロゴロしたように感じ強い痛みを伴い
涙が止まらず目を開けていられない状態になります。

このような症状は目を冷やすことで和らぎ、24時間程度で自然に治まりますが
症状を何度も繰り返すと目の障害に発展する恐れがあります。

目の健康被害を防ぐためにも作業中は対策が必要です。

溶接作業をする際には遮光ガラス付のハンドシールドまたはヘルメットを使用します。
遮光度は被覆アーク溶接の作業度合いによって異なりますので適切な暗さのガラスを使用する必要があります。

感電による危害防止

導電部に触れて感電してしまう事故を防ぐために電撃の防護が必要です。
電撃の危険度は電流の大きさ、通電時間、電流の経路、電流の種類など条件により異なります。
危害防止のため溶接棒ホルダや交流アーク溶接機自動電撃防止装置による対策が必要です。

ヒューム等の粉じんを吸い込む危害防止

ヒュームとは溶接熱により溶融、蒸発した金属蒸気が
空気中で冷却され、個体状の細かい粒子になったものです。

ヒュームのうち、微細な粉じんは胚の奥深くの肺胞にまで入り込んで付着します。
粉じんを吸い続けると肺の内部で繊維増殖が起こり胚が硬くなって呼吸が困難になる「じん肺」を引き起こします。

じん肺法では溶接作業者は定期的な健康診断が定められています。
また、防じんマスクの着用や換気が義務付けられています。

火災・爆発事故の防止

作業場所周辺に燃えやすい布や油、ガスボンベなどがある場合飛散
したスパッタが引火し、火災の原因となります。

火災や爆発を防止するためには危険物を片付けるなどの整理整頓を徹底し
移動が難しい場合には難燃性のあるシートで保護して作業を行います。

アーク溶接では安全教育が義務付けられている

アーク溶接の作業では溶接装置の不備や保守不良、不適切な溶接作業の方法を原因とした
作業者の感電、高い所からの墜落、火災、爆発などの重大災害が発生しています。

災害防止のため、労働安全衛生規則では
「事業者はアーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断などの業務に労働者をつかせる際には
特別教育を実施しなければならない」と定められており、作業に従事する方は
「アーク溶接等特別教育」の受講をしなければなりません。

アーク溶接等特別教育は「学科」と「実技」で構成され、カリキュラムは以下となります。

学科
・アーク溶接などに関する知識…1時間
・アーク溶接装置に関する基礎知識…3時間
・アーク溶接などの作業方法に関する基礎知識・・・6時間
・関係法令…1時間

実技
・アーク溶接装置の取扱いおよびアーク溶接などの作業の方法…10時間以上

試験は無く、すべての講義を受講した後修了証が交付され、修了証の受領をもってアーク溶接の業務に従事することができます。
したがって、講義をきちんと受講すれば修了となり、難易度は非常に低い資格であるといえます。

受講資格は18歳以上の方ならどなたでも可能です。

アーク溶接は安全管理の徹底が重要

アーク溶接には高エネルギーで金属材料を溶接しますので
安全対策を怠るとさまざまな危険や災害が起こる可能性があります。

溶接作業では防護具などの装備や作業環境の整備など安全管理を徹底して行わなければなりません。

法律で義務付けられた作業員の安全教育の実施や作業環境の徹底は
事業者が積極的に行わなければなりませんし、従業員は現場のルールに従って
正しい方法で作業をしなければなりません。

溶接作業に関わる全ての方が安全を徹底して災害の発生を防ぐことが大切です。